水無月晦

みなづきのつごもり

自己紹介

暗中模索の橋渡し

 新しいコミュニティにやって来た時、初めて会う人と新たな関係を築き上げる第一歩にとして、自己紹介をしましょう、と言われることがよくある。例えば私はよく実店舗でTRPGのオフラインセッションに参加するけれど、メンバー全員が知り合いでない限り、大抵セッション開始前に参加者全員で自己紹介をする。ニックネームを名乗った後で「TRPG歴〇〇です」とか「普段はクトゥルフ神話TRPGをよく遊んでいます」とか「いつもダイスの出目が悪くて困ってます」といったことが話される。取り敢えずそれに倣えば良いのだろうけれど、何度やっても自分の番が来る度に違和感を感じて少し言い淀んでしまう。何を話すべきなのか迷い言葉に詰まってしまう。

 「自己紹介」という言葉。「紹」とは「つなぐ」、「介」とは「あいだに立つ、とりもつ」、併せて「紹介」とは「二つのもの/人のあいだに立ってつなぐ」ということ。特にそれが互いを知らない人同士のあいだで行われるときは、その二人のあいだに新たな関係をうちたてる橋渡しをすることになる。自然に考えれば、それを行うのはその二人に共通する知人などだ。けれども「自己紹介」の時にはいつも共通の知人がいるとは限らず、互いを知らない者たちだけでそれを行わなければならないこともしばしばある。その時は、互いを知らない二者の一方に「自己」を宛て、相手と自らのあいだをつなぐことになる。

 私が戸惑いを覚えるのは恐らくこの部分なのだと思う。自分でも「自己」について良く分かっていないのに、どうにか目の前の人と自分との橋渡しをしなければならない。あいだをつなごうとするその両端が共に未知なのだから難儀して当然に思える。暗中模索で手を伸ばし合いながら互いの位置関係を確認しようとする。「自己紹介」というのはそういう試みのように思われる。

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