水無月晦

みなづきのつごもり

自己紹介

暗中模索の橋渡し

 新しいコミュニティにやって来た時、初めて会う人と新たな関係を築き上げる第一歩にとして、自己紹介をしましょう、と言われることがよくある。例えば私はよく実店舗でTRPGのオフラインセッションに参加するけれど、メンバー全員が知り合いでない限り、大抵セッション開始前に参加者全員で自己紹介をする。ニックネームを名乗った後で「TRPG歴〇〇です」とか「普段はクトゥルフ神話TRPGをよく遊んでいます」とか「いつもダイスの出目が悪くて困ってます」といったことが話される。取り敢えずそれに倣えば良いのだろうけれど、何度やっても自分の番が来る度に違和感を感じて少し言い淀んでしまう。何を話すべきなのか迷い言葉に詰まってしまう。

 「自己紹介」という言葉。「紹」とは「つなぐ」、「介」とは「あいだに立つ、とりもつ」、併せて「紹介」とは「二つのもの/人のあいだに立ってつなぐ」ということ。特にそれが互いを知らない人同士のあいだで行われるときは、その二人のあいだに新たな関係をうちたてる橋渡しをすることになる。自然に考えれば、それを行うのはその二人に共通する知人などだ。けれども「自己紹介」の時にはいつも共通の知人がいるとは限らず、互いを知らない者たちだけでそれを行わなければならないこともしばしばある。その時は、互いを知らない二者の一方に「自己」を宛て、相手と自らのあいだをつなぐことになる。

 私が戸惑いを覚えるのは恐らくこの部分なのだと思う。自分でも「自己」について良く分かっていないのに、どうにか目の前の人と自分との橋渡しをしなければならない。あいだをつなごうとするその両端が共に未知なのだから難儀して当然に思える。暗中模索で手を伸ばし合いながら互いの位置関係を確認しようとする。「自己紹介」というのはそういう試みのように思われる。

 「深海生物が好きなので、それについて沢山話せたらと思います」というように、どういう話題を提供できるのか提示する、というやり方。「三十代の会社員で、学生時代は陸上部でした」というように、属性や素性、立場を明かして相手を安心させる、というやり方。或いは何かギャグを言ってみて、取っ付きにくさを和らげるやり方(高難易度?)。人の自己紹介を聞いていると、橋渡しの方法は何通りかあるように見えるけれども、未だ私にはピンとくるものが見つからない。実際に様々な場面で少しずつ自己紹介の仕方を変えて試したものの、結局いつも、特に誰からも話しかけられないという結果に終わる。  しかしそれは、自己紹介の仕方が悪かったというよりも、その後の関わり方の部分で、積極的に会話したりしない関係を互いに築いていただけなのではないか。一応橋を架けてみたものの、渡ることが無ければいつか橋は崩れるか取り払われる。そんな風に、相手も自分も架けた橋を渡ってみようとしなかったに過ぎないのではないか。逆に、名前以外に大した自己紹介をしていなくとも、状況が互いに関わり合うことを強いるようなら自然と関係は結ばれる。TRPGというコミュニケーションのゲームを通じて知り合った方々とは、まさにそういった過程で沢山のつながりを築くことができた。

 そうすると、「自己紹介」は少なくとも自分から渡ろうと思える橋を架けるようなものにするのが良いのかも知れない。「こういう形でならあなたと付き合っていけますよ」と提示して、とりあえず自分は自分の橋の中ほどで待ってみる。それをお互いにやってみて、渡って来る人がいれば、そこから先はその人と付き合ううちに自ずと関係が築き上げられていくのだろう。自分の性質に適った橋の架け方が見つかれば、暗中模索の「自己紹介」ももう少し上手くいくのだろうか。

このブログと筆者について

 このブログや記事においては「自己紹介」をする相手は名前も顔も知れない不特定多数の読者の皆様になる(一部には普段私がお世話になっている方々も混ざっているかも知れないが)。すると尚のこと、私の「自己紹介」は困難を窮める。これから「自己」を紹介しようとする相手について私は一切知ることができないのだから。それでも敢えて「自己紹介」をするとすれば、姿かたちの見えない暗がりに向かって私が一方的に橋を伸ばしていくようなものになる。何も起きないかも知れないし、誰かが渡って来るかも知れないが、先ずはとにかくこちらから橋を伸ばさなくてはいけない。となれば、私が何者で、このブログを通じて何をしようとしているのかを説明するのが良いだろうか。

 筆者はここでは「りうふぃ」というペンネームで活動していこうと思う。もとよりTRPGなど遊びの場などでは「りぅ」と名乗っていたのだけれど、この名前は案外他の人と被ることが分かった*1ので、こちらではより被りが少なさそうな名前を使うことにした。

 私はただの若輩者、青二才で、学生ではあるけれども別に何か専門的な見識や技術がある訳でもない。ふらふらと色々な物事に薄く浅く触れながら日々遊び歩いているような人間だ。どちらかと言えば、頭を使って計画を練りコツコツ物事を成し遂げるより、風の向く侭に漂泊していたい方の人間だ。けれども、そういう人間にだって何か深く考えてしまうことはある、それこそ先に書いたように、「自己紹介」なるものについて大真面目に考え込んでしまうようなことがある。このブログは、そういう人間である私が考えたことをただただ書き綴っていくものにするつもりだ。他の人の言説を思考の材料にすることはあっても、ここに書くことは必ず私自身の考えにすることをただ一つ絶対の約束にしようと思う。至って「当たり前」のことだけれど、どこまでが他人の言葉で、どこからが自分の考えなのか、区別を付けることが難しいことが多々ある(私だけかも知れないが)ので、強く自分に言い聞かせるようにしたい。

 逆に言えば、それ以外に約束はしないつもりだ。論理的に書くよう努めるものの、学術論文のように充分な論拠を揃えて客観的に「正しい」ことを書くつもりはない。定期的に記事を投稿する気もないし、敢えて手軽に読める記事にする気もない。というのも、これは飽くまでも自分の為に書くからだ。私は普段、作曲やTRPGシナリオの制作を主に創作活動をしているが、ここで書くことがその創作の土壌になることを期待して筆を執った。ただ、自分のノートに書き留めておくよりかは、一応誰でも読める記事の形式で、客観的視点に晒され得ることを想定して書く方が、自分としても考えを整理し易いだろうと思ってのことだ。

どうぞよろしく

 極言すればこのブログは、何の実理性や生産性、あるいは娯楽や心の滋養にも結び付きそうにもないことばかり書くことになると思われる。役に立つことを書く訳でも面白いことをシェアする訳でもないけれど、それでもここを覗いて下さる有難い物好きがいらっしゃるなら、どうぞ末永くお付き合い下されば幸いだ。

*1:同じ名前で配信活動をされている方までいらっしゃるようだ。